春の花咲く月夜には
賀上くんは、自分を落ち着かせるように一度小さく息を吐き、それからゆっくり話し出す。

「心春さんと・・・あの先生とのことは、オレはよくわかってないし、だから、あんまり勝手なこととか言えないですけど・・・、オレは・・・、あの先生より心春さんのことを大切にする自信はあるし、大切にしたいと思ってるし、なによりすごく、好きなんで・・・。心春さん、多分、揺れてるんだと思うけど、できれば・・・オレに決めてほしいです」

隣同士。お互いに、少しうつむいている状態だから、賀上くんが、今、どんな表情をしているのかはわからない。

けれど、膝の上でゆっくりと拳を握った彼の手に、緊張と、強い想いが伝わってくる。

昨日、マサさんからどういう風に話を聞いたかわからないけど・・・、これまでの経緯もあるから、賀上くんはきっとまだ、私が先生に想いを残しているんだと・・・先生と賀上くんとの間で気持ちが揺れているのだと・・・、そう考えているんだと思う。


(・・・違うの・・・)


言わなくちゃ。

そうじゃないって、迷っているわけではないんだと。

うまく伝えられるかわからないけど・・・、素直な気持ちを伝えたい。

「わ、私は・・・、賀上くんのことが好きです」

「・・・え?」

いきなり、結論から言ってしまった。

顔は怖くて見れないけれど、賀上くんは、とても驚いているようだった。

もう一度、勇気を出して彼に伝える。

「先生と、賀上くんとで気持ちが揺れてるわけではなくて、私は・・・、私も、この前、デートした時から賀上くんのことは好きになっていて・・・。けど、あの時すごく自信がなくて、告白してくれた時、すぐに『うん』って言えなくて・・・」


(ああ・・・、ダメだ、うまく言えない・・・)


まるで言い訳みたいな言葉の羅列で、全然うまくまとめられない。

もっといろんな感情を、上手に伝えられたらいいのに。

「・・・自信ないって・・・、それは・・・、オレとうまく付き合う自信がないってことですか」

「う、ううん!そうじゃなくて。なんていうか・・・、賀上くん、かっこいいし、バンドもやってて、ファンの子たちもたくさんいるし・・・、実際すごくモテるから。私だと、不釣り合いのような気がしてて、それでしばらく悩んでて・・・」
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