春の花咲く月夜には
考えるように言いながら、賀上くんは、アイスコーヒーをストローでくるりとかき回す。

氷が動き、カラン、という音がした。

「まあ、気持ちの全部が伝わるとは思ってませんけど・・・。とりあえず、他の人が言う何かより、オレのこと信じてほしいかな」

「・・・」

きっと、亜莉沙ちゃんの言ったこと。

私が勝手に気にしてる、他人の評価もあるかもしれない。

他の人や、どこかの誰かの目ではなく、賀上くんを・・・ちゃんと信じる。

「・・・亜莉沙が、有り得ないこと色々言ってたみたいですけど・・・。心春さん、その時泣きそうだったってカナから聞いて。ほんとに・・・・・・、すげぇどうしようかと思ったし、これでオレがフラれるんじゃないかと思ったし」

「・・・っ、どうして」

「・・・いや・・・、なんかわかんないけど・・・、とにかくもう、すげえ焦って。とりあえず、『ちょっと行ってくる』って練習抜けて」

「えっ!」

やっぱり、練習の最中だったんだ。

今日はライブの前の、最後の貴重な日曜日。

「大丈夫なの?」と、私は不安になって彼に尋ねる。

「まあ・・・、後でまたちゃんと戻るんで。とにかく今は・・・、誤解があったら解きたかったし、泣いてたらどうにかしたいと思ったし。とにかく・・・、いてもたってもいられなかったというか」

「・・・」


(・・・そう・・・だったんだ・・・)


こんなにも、彼は想ってくれている。

それなのに、私は彼を疑って、不安にばかり目を向けていた。

今までだって、たくさんのものを私に与えてくれていたのに。

それなのに・・・、自分に自信がないせいで、私は、彼の気持ちをちゃんと受け取れていなかった。

「・・・・・・、心春さん、手ぇ出して」

「え?」

突然のお願いだった。

私は「?」と思ったけれど、言われた通りに彼に右手を差し出した。

すると彼は、スッと私の右手を手に取って、甲の部分にキスをした。


(・・・!!)


まるで、王子が姫にするように。

この場所に、こんなふうにキスを受けるのなんて初めてだ。

驚いて、頬が熱くてたまらない。

柔らかく、ヒンヤリとした感触に、私の全てが震えてく。
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