春の花咲く月夜には
「・・・あ、あの・・・」

「ん・・・?」

「ここ、お店だし・・・、ちょっと・・・、恥ずかしい・・・」

火照る頭で、私はなんとか訴えた。

賀上くんは、唇を僅かに手から離すと、少しだけ首を傾けて、上目遣いの眼差しで言う。

「今空いてるし。誰も見てないですよ」

「そ、そういう問題ではなくて」

「・・・心春さん、言葉だけだとあんまり伝わらなそうなんで。オレも、伝え方工夫しようかと」

そう言うと、彼は握ったままの私の手を少し持ち上げて、今度は指にキスをした。

私の頬がさらに火照って、鼓動がぐんと速くなる。

「も、もう、本当に、伝わったから・・・」

「・・・ほんとに?これで伝わってなかったら、今度は会社でなんかしますけど」

「・・・っ!?」


(な、なんかって・・・)


なんだろう・・・と、ドキドキすると、賀上くんは、どこか甘くて・・・少しだけ、意地悪そうな顔をした。

彼のこんな表情は、私は初めて見るかもしれない。

「だ、大丈夫・・・、今度こそ」

「・・・そっか。じゃあ・・・・・・、心春さんを信じようかな」

そう言うと、彼は笑って、私の手をそっと解放してくれた。

キスを受けた感触は、まだ、肌に残ってる。



ーーーお互いに、信じるって決めたこと。

今日、彼と交わした約束は、とても大事なものだから。

忘れないように大切に。

心にしっかり留めておこうと、私は、自分に誓ったのだった。









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