春の花咲く月夜には
それからの一週間は、気分が安定しなかった。

平沢さんのことを思い出せば気分が悪くなり、一瞬でずーんと落ち込んだ。

けれど右隣にいた・・・バンドマンの彼のことを思い起こすと、なぜか気持ちが温かくなる。

奈緒は「危険人物」だって疑っているようだけど、やっぱりいい人だと思う。

実際に会えば奈緒の印象も変わるかな・・・。


(だってあの状況で、声をかけるなんて普通はできないことだと思うし・・・)


彼は、平沢さんみたいなタイプが許せないんだと言っていた。

けれどあの時、平沢さんを(とが)めたいっていうよりも、私が困っているのを感じ取り、助けてくれたんだと思う。


(もし、隣の席で気になることがあったとしても、実際声をかけるだなんて、なかなかできないことだよね・・・)


それに私は、彼自身に興味があった。

好みのタイプではないし、恋愛関係に発展するとは思えないけど、仲良くなってみたいという気持ちがあった。

それは、彼がいい人そうだという理由ももちろんあるけれど、バンドマンだということに、ちょっぴり興味があったから。


(どんなバンドで、どんな演奏するのかな・・・)


今はほとんど音楽を聞かなくなってしまったけれど、学生時代は大好きで、よくコンサートにも行っていた。

特に、「×3BLACK(スリーブラック)」というロックバンドが大好きで、いつもいつも聞いていた。


(だけど今は・・・、なんだろう、忙しくて聞くのも忘れている感じだし、聞いてしまうと、あの頃を思い出すからな・・・)


学生時代の思い出と、「×3BLACK」の曲や当時の流行りの曲がリンクする。

BGMのように流れる、その、全ての場面には、元村先生の顔が自然と浮かぶ。


(思い出すと、つらい気持ちになるもんね・・・)


だから私は、音楽を聞くことを止めてしまったのかもしれない。

忙しさなんて理由もつけて。

そんなこと、聞かない理由になんて全くならないはずなのに。
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