春の花咲く月夜には
「物販やってまーす!」

「あ、ミキー!久しぶり~!!」

「ビール飲みてえー、ビールくださーい」

ロビーでは、所狭しと様々なことが行われていた。

きょろきょろしながら、受付らしきところでワンドリンク代を支払うと、引換券を渡された。

今飲むかどうしようかと悩んだけれど、ドリンクは帰りにもらうことにして、私はすぐにホールに入った。

とりあえず、ファンの子たちの邪魔にならないように・・・と、後ろの空いている場所をキープする。


(・・・そういえば、あの彼のバンドは何番目に出るんだろう)


チケットに記載されていた上からの順番だとすると、彼のバンド・・・「T's Rocket」は一番最後になるけれど。

未確認の情報だらけ。

連絡先は聞いておいた方がよかったかな・・・。


(・・・あっ、そうだ!チケット代払わなきゃ)


思い出し、スタッフの誰かに声をかけに行こうとロビーに出ようとした私。

けれどその時、ちょうど女の子たちの集団がわー!っとなだれ込むようにホール内に入場してきて、その流れに、私は、元いた場所に押し戻されてしまった。


(う、うーん・・・、これは、ちょっと出にくくなっちゃったな・・・)


ホールに人が溢れてきたし、出入り口付近もお客さんたちが集まっている。

出れないわけではないけれど、一度出たら、同じ場所に戻るのは難しそうな雰囲気だ。


(仕方ない・・・、もう、帰りに渡すことにしようかな。戻った時に、落ち着かない場所しか空いてなかったら困るしね・・・)


そう考えて、私は、開演前にチケット代を渡しに行くのを諦めた。

・・・それに。

考えてみれば、バンド名だけで彼自身の名前はわからない。

多分ボーカルだろうと勝手に予想はしてるけど、あくまでもただの予想なので、「『T's Rocket』のボーカルの人に渡してください」と、チケット代を渡す訳にもいかないだろうと考えた。
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