春の花咲く月夜には
私は緊張もあって拍手くらいしかできなかったけれど、密かにライブは楽しんでいた。

ステージ上のメンバーも、お客さんたちもみんな楽しそうに過ごしているし、今しかないこの生演奏が聞ける空間は、私はやっぱり好きだと思った。

「ありがとうございましたー!!」

2組目のバンドの男の子たちが、客席に手を振りながらステージの上から去っていく。

客席からは、メンバーの名前を呼ぶ声や、「かっこよかったー!!」という声が響いていた。

楽しそうで、キラキラしてて、やっぱり、ここにいる子たちを眩しく思う。


(そうしたら、次は、あの彼のバンドだ・・・)


ついに、と、ドキドキしながら出番を待っていると、ホール内のお客さんがどんどん増えていることに気がついた。

「T's Rocket」は人気があるのだろうか。

トリなのだから、当然なのかもしれないけれど・・・。

ほどなくして、バンドメンバーがステージに順に現れた。

ボーカル、ベース、ドラムの位置に、それぞれのメンバーが移動して、音やマイクの調整をし始める。


(・・・あれ・・・?あの彼はボーカルじゃないんだな・・・)


ステージの真ん中、ボーカルの位置には、やんちゃそうな茶髪の男性が立っている。

ベースやドラムの男性メンバーも見てみるけれど、2人とも、彼じゃない。

と、いうことは・・・と思っていると、客席中から「きゃー!!」と黄色い声が上がった。

「サクヤー!!」


(ん・・・?)


他のメンバーから少し遅れて、気怠そうな雰囲気の男性が、ギターを抱えてステージ上に現れた。

見ると、あの、彼である。


(・・・ギターだったんだ・・・)


意外、と思ったけれど、それはほんの一瞬だった。

ギターを抱える姿は彼にしっくりと馴染んでいたし、その様子は、とても絵になっていたから。

思わず、少し見惚れてしまう。

「あー、今日もサクヤはかっこいい!!」

「前髪上げてほしいよねえ。せっかくのイケメンなんだから」


(・・・サクヤ・・・、前髪・・・)


あの時の彼 = ギタリスト = 「T's Rocketのサクヤ」、なのだろう。

周りの子たちの様子から、彼はやっぱりイケメンで、そして、どうやらかなり人気のようだと感じ取る。
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