春の花咲く月夜には
「こんばんはーーー!『T's Rocket』でーす!!」

ボーカルの男性の挨拶に、客席中が「わー!」と大きく盛り上がる。

さっきまでのバンドとは、まるで熱量が異なるような勢いで。

「えー、今日はみんな来てくれてありがとうございます。最後まで、楽しんでってくださーい!!」

ボーカルの男性がそう言うと、すぐにドラムがリズムを刻み、ギターとベースの音も重なった。

マイクに向かって、ボーカルの男性が曲に歌詞をのせていく。


(・・・あっ、好きな感じかも・・・!)


「×3BLACK」にどこか似ている。

テンポがよくて気分が上がる。

ボーカルも結構好みの声だったので、聴いていてとても心地よかった。

続いて、2曲目、3曲目と流れるように演奏されて、会場中はどんどん熱気に包まれる。

そして、一呼吸をおいて4曲目のイントロが流れた瞬間に、私は途端にドキリとなった。


(・・・きれいな曲)


ホールに響く、切ないようなギターソロ。

あの、ギターの彼に視線を向ける。

一音一音、丁寧に紡ぎ出すように、彼の指が、弦に触れては(はじ)いてく。

目が、心が、ステージの彼に奪われた。

そして、ボーカルの息遣いが聞こえ、マイクに向かって言葉を放つ。

その、歌詞も雰囲気も、さっきまでの3曲とはまるで異なる印象だった。


(・・・いいな、この曲)


まるで、きれいな詩を聞かせてもらっているような。

全ての歌詞を聞き取れるわけではないけれど、大切な人を思って書いたであろう、その気持ちはじんわりと私の胸に届いた。



ーーーーー

ずっと大切にしたかった

この想いは絶対に届かないけれど

それでも僕が受け取ったもの

あなたがくれた全部のことを

いつか誰かに返したい

ーーーーー



「・・・、ありがとうございましたー!」

歌い終わると、ボーカルが頭を下げて挨拶をして、他のメンバーもそれに続いた。

客席からは、曲に合わせたような静かな拍手が送られる。

ほっと、会場中が温かい空気に包まれた。

そして、今度はまた打って変わってテンポのいい元気な5曲目が始まって、客席中がまた「わーっ!」とすぐに盛り上がる。


一瞬で、変わった空気。

すごい、と、素直に思った。


(お客さんのパワーもだけど、ステージにいる『T's Rocket』がすごいんだ・・・)


その後も、テンポのいい曲が数曲演奏されて、アンコールもあり、会場中が盛り上がる。
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