春の花咲く月夜には
「・・・ああ・・・、けど、前髪上げてスーツ着てるだけですけどね」

「う、うーん・・・、それだけですごく違うんだよね・・・」

本人は、自分の変化にあまり自覚がないようだ。

確かに、ヴィジュアル系バンドのステージ姿と比べたら、あまり変わってないと感じるのかもしれないけれど・・・。

「・・・そうだ。こはるさん、オレがバンドやってるってこと、会社では内緒にしといてもらえませんか」

「え?うん、それはいいけど・・・、秘密にしてるの?」

「まあ・・・、できればっていう感じですけど。時々、物珍しさで騒ぐ人とか結構いるんで・・・、色々めんどくさいというか」


(ああ・・・、女の子かな?)


このルックスで「バンドやってる」「ギター弾いてる」などと言われたら、見てみたい、聞いてみたいって興味がわくのはわかる気がする。

賀上くんを「いいな」って思っている子なら、尚更騒いでしまうかも。

「わかった。じゃあ、会社ではその話題には触れないね。そうしたら、知り合いだったってことも言わない方がいいのかな?」

「いや、別にそこまでは・・・。今話してるのも誰かに見られてるかもしれないし。わざわざ話さなくてもいいとは思いますけど・・・、もし聞かれたら、そうだな・・・、昔の知り合いだとか適当に言ってもらえば」

「昔の知り合い・・・」

そこから少し話をすると、お互いに飲食店でバイトの経験があることがわかり、そこで一時期一緒だったと話を合わせることにした。

「了解」と頷いた後、私はそうだとハッとして、ドキドキしながらもう一度、口を開いた。
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