春の花咲く月夜には
「・・・あの」

「はい?」

「私も、マッチングアプリで会った男の人に騙されそうになっていたとか、内緒にしててほしいんだけど・・・」

こんなこと、会社の後輩だとわかった彼に頼むのも結構恥ずかしかった。

けれど、思い出すと苦い気持ちになるし、この事実を会社の人に知られたら、それこそ恥ずかしすぎて死にそうだ。

「・・・ああ、なんだ。もちろん。いいですよ」

あっさりと了承の返事が聞こえ、私は、ほっとして顔を持ち上げた。

目が合うと、彼は私を見下ろしにこりと微笑む。

「けど、条件つけていいですか」

「えっ」

「また、ライブ来てください。それと連絡先も。結局聞けてなかったから・・・、教えてください」

先日の、ライブ帰りに言われたことと同じこと。

どんな内容を言われるのかとドキドキしたけど、一度のんだ条件だから、私は迷わず頷いた。

「うん」

じゃあ・・・、と、スマホを出そうとした時に、どこからか、女性の話し声がした。

何人かの女性たちがこちらに向かってきているようだ。

「・・・とりあえず、オレの連絡先渡しときます。すいません、仕事中に引き留めて」

そう言うと、私に名刺を手渡して、賀上くんはすぐにその場を去っていく。

ほどなくして、賀上くんと入れ替わるように、総務課の女性3人が後ろをちらちら振り返りつつ、興奮気味にきゃっきゃとしながらエレベーターホールに現れた。

「やばい・・・!やっぱ超イケメン」

「ねーっ、彼女いるのかなあ」

「いるでしょう~、あれは」

楽しそうに話す女子3人。

明らかに、賀上くんのことを話題にしているようだった。


(やっぱり、女の子たちに人気あるよね・・・)


私はついさっきまで、彼のことを会社で認識していなかったけど。

私が知らなかったというだけで、「イケメンが入社してきた!」って、会社中で話題になっていたかもしれない。
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