春の花咲く月夜には
約束の金曜日。

私は、仕事中からそわそわしていた。

相手が後輩だとはいえ、そして、デートなわけではないけれど、やはり、男性と2人で飲みに行く、という事実にどうしても緊張してしまう。


(・・・でも、楽しみなことも事実なんだ)


男性だとか後輩だとか、2人きりとか、会話がちゃんと続くかなとか・・・、不安要素は色々あるけど、賀上くんとはもっと話してみたかった。

緊張はなくならないかもしれないけれど、それでも、楽しく飲めて話せればいいなと思う。



終業後。

賀上くんとの待ち合わせ場所は、会社から3駅離れた「石楠花(しゃくなげ)駅」の真横に建っている、とある本屋の中だった。

今から飲みに行く店が、ここから歩いて5分程の場所にあるからだ。

私たちが「昔の知り合いだった」ということは、すでに会社のみんなに知られているので、2人で飲みに行くところを見られても、へんな誤解はされないだろうと思うけど。

それでもやはり、会社の人と鉢合わせするお店は避けたいなと思っていたら、賀上くんが、「ほぼ確実に会わないであろう店を知ってます」とのことだったので、そのお店に連れて行ってもらうことになったのだった。


(20:15・・・、賀上くんもそろそろ着くかな?)


私は少し前に仕事が終わって、先に石楠花駅に到着していた。

賀上くんも先ほど「仕事が終わった」と連絡があったので、そろそろ着いていい頃だ。

そわそわしながら、けれど、それを悟られないように女性雑誌を眺めていると、「心春さん」と、後ろから声をかけられた。

振り向くと、スーツ姿の賀上くん。

社内では少し見慣れてきたけど、仕事から離れた場所で、彼のスーツ姿を見るのは初めてだ。

シチュエーションがいつもと違うこともあり、ちょっとドキッとしてしまう。
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