春の花咲く月夜には
「こんばんはー」

賀上くんが店のドアを開けて中に入ると、「あらあ!」という、明るい男性の声がした。

彼の後ろからチラリと中を覗いてみると、かなりイカツイ、スキンヘッドの男性が、満面の笑みでこちらに走り寄ってきた。

「いやだサクちゃん久しぶりィ~!全然来てくれないからすごく寂しかったのよぅ」

「すいません。最近仕事変わってバタバタしてたんで」

「みたいねえ。ショウちゃんが話していたけれど・・・」

「会いたかったわよーぅ!」と言って、スキンヘッドの男性は、賀上くんにハグをした。

そして、まるで動物を相手にするように、彼の頭をわしゃわしゃと撫でまくっている。


(て、店長だよね?確かに・・・、クセ、強いかも・・・)


今まで、身近には全くいなかったタイプの男性だ。

賀上くんはされるがままに、髪がボサボサになっている。

「・・・あら?」

スキンヘッドの男性は、彼の後ろにいた私を見つけ、ひょいっと覗き込んでくる。

目が合って、思わずドキリとする私。

「あらやだかわいいお嬢さん~!!やだやだ、サクちゃんの彼女なの?」

ぐいぐい、と顔を近づけられて、思わず身構えてしまった。

どうしよう、と思っていると、賀上くんが「違いますよ」と、髪を整えながら冷静な口調で話し出す。

「会社の先輩です。あんまりマサさんみたいなタイプ慣れてないと思うんで・・・、普段より圧弱めでお願いします」

「あら~、そうなのお?だいぶ弱めで近づいたんだけど・・・」

「さらに、その100分の1くらいの圧で」

「え~・・・、難しいわねえ。んー、まあいいわっ!ちょうどいい席空いたのよ~。さ、とにかく入って入って」

「は、はい」

店長・・・マサさんに手招きをされ、私と賀上くんは店の中へと入っていった。

店内は、カウンター席が4席と、4人掛けのテーブル席が1つ、横並びに椅子が並んだ2人掛けのテーブル席が1つというこじんまりとした空間だった。

外観と同様に、中もおしゃれなカフェの雰囲気だ。

今は、お客さんはカウンターに2人いるだけで、私たちは、2人掛けの席に案内された。

「ここ、カップルにはおすすめの席っ」

「・・・だから、会社の先輩だって」

「まあまあいいから~。あ、彼女・・・はなんて名前なのかしら?」

「向居、心春です」

「こはるちゃん!すごくかわいい名前ねえ。で、こはるちゃんは何を飲む?サクちゃんはビールよね」

「はい」

「あ、私もビールで・・・」

「オッケ~。料理はおまかせでいいわよね?」

「・・・はい。お願いします」

「はーい、了解~」

やけにルンルンとした足取りで、マサさんはカウンターの中へと消えていく。

賀上くんは、「はあ」と小さく息をはく。

「・・・すいません。なんか勝手に勘違いされて」
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