春の花咲く月夜には
「・・・美味しそう・・・」

「うまいですよ。マサさんの料理うまいんです」

「そうなんだ・・・、うん、これは絶対美味しいと思う」

賀上くんは、そわそわとする私を見て少し笑った。

じゃあ、と、乾杯をしてビールで喉を潤してから、早速前菜に手を伸ばす。

「・・・美味しい!」

「でしょ?」

鶏肉と野菜をソースで和えた前菜だった。

全体的にさっぱりとしているけれど、鶏肉には下味がよくしみこんでおり、ソースの味もとても美味しい。

他の2種類の前菜も、見た目もきれいで、とても美味しくいただいた。

「美味しいね、ほんとに」

「ですよね。マサさんの料理はほんとにどれもうまいんです。けど、マサさんのクセが強すぎて、あんまり新規の客が来ないっていう」

「んー?ちょっと~、サクちゃん全部聞こえてるけど~?」

続いてメインを持ってきてくれたマサさんが、不服そうにテーブルの横で頬を膨らます。

「ほんとのことじゃないですか」と賀上くんが答えると、マサさんは、「まあねえ」と深いため息をつく。

「でも、サクちゃんたちはしょっちゅう来てくれるしねえ、他の常連さんたちも長く通ってくれるから。新しいお客さんは別に来なくていいかしらって、アタシ自身が思っちゃってるところもあるのよねえ・・・」

「ま、料理褒めてくれたから、今日はそれで許しちゃう!」と言って、マサさんが、賀上くんに向かってバチン!と右目でウインクをした。

賀上くんは苦笑いして、軽く右手をあげた。

「・・・そういうわけで、ここ、会社の人は誰も来ないと思います」

「うん・・・、かもしれない」

2人で笑った。







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