春の花咲く月夜には
それから、仕事の話も少しした。

飲む前は、賀上くんに仕事の悩みがあるんじゃないかとそこも心配してたけど、それは杞憂で、「特にない」ということだった。

以前働いていた会社に比べ、待遇はいいし仕事の量も適量で、先輩たちも頼りになるということで、「覚えることはたくさんあるけど、悩むようなことはない」らしい。

前の会社が相当大変だったからだと思うけど、入社して2か月でそう言える、彼は素直にすごいと思う。

紗也華が言っていた通り、賀上くんはなかなか頼りになりそうだった。



22時半を過ぎたところで、そろそろ帰ろうかという流れになった。

もう少し話したい気持ちもあったけど、これからまたお互い電車に乗って帰らなくてはいけないし、いい頃合いだとも思った。

「じゃあ、行きましょうか」

「うん」

席を立ち、酔っているのか身体が少しふらついたけど、すぐにシャキッと背筋を伸ばす。

「お酒はわりと強い」と宣言してしまった手前、ふらふらしているわけにはいかない。

一歩一歩、床を踏みしめながら賀上くんの後ろを歩いていくと、彼はマサさんに挨拶をして、そのまま店を出ようとしたので、私は慌てて引き留めた。

「ちょ、お会計は」

「ああ、さっき払っておいたので。大丈夫ですよ」

「え」


(いつの間に・・・)


「さっき」って・・・、私がトイレに行っている間だろうか。

それしか考えつかないけれど・・・。

「ごめん、いくらだった?私も払う」

「いいですよ。今日はオレが誘ったし、曲、褒めてくれたお礼です。それに、オレの方が絶対多く飲んでるし」

「・・・それを言うなら、絶対私の方がいっぱい食べてる・・・」

「もー!いいのよいいのよ心春ちゃん。サクちゃん、せっかくカッコつけたんだから。ここはね、『ありがとう~♡』って、素直に甘えればいいとこよ~」

マサさんが、「ねー」と賀上くんにウインクすると、彼は「そう言われるとかっこ悪いけど。そうですね」と言って苦笑した。

私は、カバンから出したお財布を手に、どうしようかと悩んでしまう。


(い、いいのかな・・・)


後輩男子と2人で飲んで。

それなりの量を飲んでいるし、かなりの量を食べたけど、先輩の私がまるまるおごってもらうだなんて。
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