春の花咲く月夜には
「ああ・・・、はい。心春さんがよければ、また、一緒に・・・」

照れるような仕草を見せて、賀上くんがそう言ったから。

私もつられて照れてしまって、「うん」と短く頷いた。

「じゃあ・・・、また誘います」

「・・・うん。あ、マサさんのお店でもいいけれど、今度は私がなにかお礼にごちそうするよ。これでも一応、先輩だし」

今でも少し、気になっている。

お会計の後の彼の態度が急に冷たくなったこと。

今となっては気のせいかもとも思っているけど、やっぱり、先輩としておごられっぱなしは申し訳ない。

「別に、先輩だからとかいいですよ」

「うん・・・、賀上くんはいいかもだけど、私はやっぱり気になるし・・・」

考えるように私が言うと、賀上くんはぷっと笑った。

「・・・やっぱ、そっか」

「ん?」

「心春さん、最初からそうだったから。コーヒー代とチケット代、なにがなんでも払おうとしてたよなって」

「・・・だ、だって。あの時は助けてもらった立場だし、初対面でいきなりおごられるわけにもいかないなって思ったし」

「うん」

彼が髪をかき上げて、少しだけ、久しぶりの笑顔が見えた。

ドキッとなった私の胸は、そのまま鼓動を速くする。

「じゃあ、せっかくだから今度デートしてもらってもいいですか」

「・・・えっ」

「別に、おごるとかはどうでもいいけど、心春さんと一緒に出掛けたい」

賀上くんに見つめられ、一気に頬が熱くなる。

湯気が出そうな勢いに、耐えられなくて、視線を逸らす。

「どこでもいいですよ。心春さんの好きなとこ」

「あ、う、うん。ちょっと、今すぐどこがいいって出てこないけど・・・」

「はい、それは全然・・・、あ、それともギター弾いてみますか?オレの家・・・はちょっとマズイか。よかったらスタジオ借りとくし」


(ギター・・・)


飲みながら話していたことだ。

一度も触ったことのない、ちょっと憧れのある楽器。

「デート」、と言われるとどうしても身構えてしまうけど、ギターを教えてくれるのならば、そのハードルが少し下がるような気がした。
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