春の花咲く月夜には
「・・・うん。じゃあ・・・、教えてくれる?」

「っ、はい。そしたら、来週か再来週あたりで空いてる日、後で教えてください」

「うん、わかった。家に帰ってまた連絡するね」

「はい」

驚くくらいスムーズに、次の約束ができてしまった。

そのことに、嬉しくなっている自分に気づく。

「・・・じゃあ、また」

「はい。気を付けて帰ってください」

「うん。ありがとう。賀上くんも・・・」

名残惜しさを感じつつ、賀上くんに頭を下げて、そのまま一人で改札を出た。

振り返ると、彼は軽く右手を上げた。

表情はよく見えないけれど、口元だけで、彼の様子はなぜかわかった。

優しい笑顔。温かくって、穏やかな。


(・・・不思議だな)


数時間前までは、賀上くんのことを意識してなんていなかったのに。

今の私はドキドキとして、それを止められないでいる。


(・・・これは・・・、もしかして。もしかしたら、この感情はーーー・・・)


だけど、まだわからない。

今はまだ、気づいたばかりなのだから。

この感情に名前をつけるのは、もう少し後にしておこう。

私は、ドキドキとする胸を抑えつつ、彼に向かって手を振った。





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