春の花咲く月夜には
それを言うなら、ずっと先生に片思いをしていると、そう言いそうになる自分を抑えた。

きっと、先生にとって私はずっと「ファン」であり、好きな気持ちは、恋愛の「好き」とは違うものだと認識されているのだと思う。

「まあ、向居の大学はおしゃれな子が沢山いそうだもんなあ。周りに影響されて・・・っていうのもあるか」

「・・・そう、ですね・・・。自分なりにメイクとか服装は一応研究したり・・・頑張ってます」

「はは、そっか。それで綺麗になったのか。研究の成果ちゃんと出てるな」

先生が笑った。

社交辞令だとしても、もう一度「綺麗」だと言ってもらえて、私はとても嬉しかった。

「・・・あ、そうだ。そういえば、今担任してる子でさ、A大学希望してる子がいるんだよ。うちの学校、あんまりA大学行く子いないだろ?だからよければ、向居に色々話を聞かせてもらえたらって思うんだけど」

「っ、もちろん。いいですよ!私でよければ」

「よかった。じゃあ、連絡先教えてくれる?・・・えーと、向居個人の携帯の」

「・・・っ、はい!」

私はスマホを取り出して、先生と連絡先を交換しあった。

学生の頃には考えられなかった状況に、嬉しさと緊張で、手が震えてしまう。


(わー・・・、先生のアイコンだ・・・)


画面を見て、思わず顔がにやけてしまった。

先生のアイコンは、空と山が映った綺麗な風景写真。

どこだろう、小さくてよくわからないけれど・・・、外国のような雰囲気がする。

なにはともあれ、先生とこうしてつながる手段ができたのは、本当にとても嬉しく思った。

「ありがとう。じゃあ、また連絡するな」

「はいっ」

本当に、夢を見ているようだった。

大好きだった先生と、2人で電車に乗れたこと。

そしてまた、先生と、こうしてつながる手段ができたこと。





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