春の花咲く月夜には
(・・・どうしよう・・・、でも、せっかくだから今日は楽しく過ごしたい。もう少し、ここでなにか話そうか・・・)


とはいえなにも浮かばない。

悩んでいると、賀上くんがコホン、と軽く咳払い。

「・・・なんか、緊張しますね」

声が聞こえて、私はぱっと彼を見上げた。

目が合うと、彼は落ち着かない様子で首の後ろに手をやった。

「や、その・・・・・・、オレ、調子に乗って『デートしてください』とか言っちゃったけど。あの日と違って、今日は酒は入ってないし・・・、心春さん、やけにかわいいし」

「えっ」

驚いて、心臓がドキンと大きく跳ね上がる。

同時に、頬がぐんぐん熱くなるのを自覚した。

「・・・あ、いや、いつもかわいいけど。今日はまた特別というか・・・、なんか照れます」

言葉通り、照れたように伝える彼に、私の頬は、さらに熱を上げていく。

髪もメイクも服装も、頑張った甲斐があった!って、そこは嬉しくなるけれど、気合いはあまり伝わっていなければいいなと思う。

「・・・、えっと・・・、まあ、そんな感じでちょっと緊張してるんですけど・・・。今日はよろしくお願いします」

「こ、こちらこそ」

「・・・じゃあ、行きましょうか」

「っ、うん」


(ーーーーー、そっか・・・)


ドキドキしながらほっとした。

賀上くんは、あの日のことを覚えてる。

さっき、「今日は酒が入ってない」と言っていたから、もちろん多少は酔っていたんだと思う。

けれど、あの日に言っていたことや、手を繋いだり、私の肩を抱いたりしたことも、全て、彼はきっと覚えてる。


(・・・・・・どうしよう。やっぱり嬉しい)


あれらは全部、その場だけのことじゃなかった。

そしてそれは、今の想いに繋がっている。

ーーーそのことが、私はとても嬉しくて。

嬉しくて・・・ほっとして。

私はやはり、賀上くんを好きになっているかもしれないと、自分の胸に、何度目かの問いかけをした。





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