きみと3秒見つめ合えたなら
 冗談のつもりが...オレの中でどうしようもない感情がわいてきた。

「ヤバい。好きすぎて、どうにかなりそう。」
もう、我慢ができなくなっていた。
 
 オレは握っていた手をそっと解き、先輩の頭を撫でた。
 
 なんて愛おしいんだろう。

「先輩の受験の邪魔しないようにするから、今日だけ、オレのわがまま聞いて。」

「うん。」
先輩が静かにうなずく。

 オレは、先輩の頭をきゅっと自分の方へ引き寄せた。もっと近づきたい。
 
 オレと先輩の距離が縮まった時、オレは先輩に短いキスをした。

 1秒、2秒、3秒...、オレは再び先輩を見つめた。

 先輩も、もう、目を逸らすことなく、オレがくらくらしてしまうほどに見つめる。

 愛おし過ぎて、頭がどうにかなりそうで、気がつけば、先輩の唇に何度もキスをしていた。

 重ね合わせた唇と唇が織りなす甘美な音が、更にオレを狂わせる。

 オレは恋愛において、なんでも慣れている...なんて思われているが、実はこんなキスをしたのは初めてで、自分でも戸惑いつつ、夢中で先輩にキスをしていた。
 
「んっ」
先輩から甘い吐息が漏れると、オレの中のスイッチが入り、オレは先輩との深い深いキスに身を投じた。

 ヤバい、気持ち良すぎて。
 オレは先輩の顔を見たくて、そっと目を開けると、先輩と目があってしまった。
 
 びっくりした先輩が思わずオレから離れる。

 オレも、一旦、自分を落ち着かせる。

「合格したらって言ったのに。待てなくて。先輩、怒ってる?」
先輩は下を向いたまま、首を横にふる。

「ねぇ、先輩?先輩って本当にキス初めて?」
あまりのキスの気持ちよさに思わず聞いてしまう。

「な、なに?急に...桐谷くんとしたのが、初めてに決まってるじゃん。」

 先輩はびっくりしつつも、照れながらオレを見て「オレとのキスが初めて」と言ってくれたことにオレの頬が緩む。

「すっごい上手いんだけど...」
オレがそう言った瞬間、先輩は両手で顔をおおって、また、うつむいてしまった。

 今日の先輩は一段と可愛くて、今まで気づかなかったけど、色気もあって、ドキドキがとまらない。そんな先輩にずっと恋をしていたオレ。彼女と別れたからではなく、ずっとずっと想っていた事を知ってほしい。

 先輩に伝えたい想いがあふれる。

「やっぱりオレ、先輩が好き過ぎる。何年も諦めなくてよかったー。」
オレは先輩の髪を撫でながら言った。

「何年って、長くて1年くらいでしょ?」
先輩が不思議そうに聞いてきた。

「もっとだよ。オレ、中2の時、1回先輩と会ってるんだ。その時から、先輩の事はずっと心の奥にあって。ま、彼女とかいたから、信じてもらえないと思うんだけど。東高に来たのも、先輩に会えると思ったから。だから3年くらいずっと相川絢音推し。」
あの日見た先輩が忘れられなかったのは、本当のこと。

「全然記憶にない...」

「あたりまえだよ。だって、先輩、オレのこと知ったのって、去年の夏でしょ?春から部活にいるのに...」オレは若干スネてみる。

「ごめん...。」先輩も苦笑い。

 名前と顔も一致しないような後輩から、よくここまでのぼり詰めたもんだ。なかなか空回りもしたけど、今、先輩はオレだけを見てくれている。
 
 いつか先輩の隣で...とずっと思っていた。


「そろそろ帰ろっか。」先輩に促され、返事をするも、思わず、「そうですね」なんて敬語になってしまった。

 別れ際、もっと一緒にいたい気持ちを抑えて、先輩に別れを告げる。

「先輩、じゃ、また。」
「うん。またね。」

『おつかれさま』ではない。
 これからはずっと『またね』が続く。
この夏はオレにとって、本当の恋が実った最高の夏だった。
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