きみと3秒見つめ合えたなら
 御山公園駅のホームには桐谷くんがいた。

 目が合って、避けるにも、ホームには人がいなくて、隠れることも、引き返すこともできなかった。

 桐谷くんが私に近づいてくる。

「先輩、聖斗くんところ、行ってたんですか?」
まっすぐに私を見る。桐谷くんから、早瀬くんの名前を聞くと、更に胸が苦しくなる。

「景子に誘われて。」
うつむき加減に私はこたえた。

「ふ〜ん。まだオレより聖斗くんのこと、好きですか?」
 
 予想外の問いかけに、言葉に詰まる。

 好きなのは...私が好きなのは...

 早瀬くん...じゃない。
 なんで、桐谷くんの存在が私の中で大きくなっていくの?

 キス...されたから?
 それだけ?
 違う。それは、単なるきっかけ。

 夏のあの日から...「推し」なんて言われた体育祭の日から...一緒に帰った日から... いつからかは、もうわからないけど、たぶん、好きだったんだ。

 私の対角線上にいるような、しかも後輩の、桐谷くんなんかを好きになってはいけないと、心のどこかでブレーキをかけて、「からかわれている」と思いこむことで、自分が傷つかないように..。

 だけど、昨日のできごとが、私を覆っていた分厚くて固い殻を一気に壊した。
 もう、二度と修復できないくらいに。
 
 私が好きなのは...

 心の中ではもう、気づいているのに、それでもまだ頭の中では、否定しようとする私がいる。


「茉莉ちゃんは?昨日、どうしたかなって。」
私は苦しさを紛らわせたくて、話をそらした。

「気になりますか?」
桐谷くんは私を試すかのように、尋ねる。

「オレ、昨日、自分のことで一杯になって、茉莉の約束忘れちゃったんですよ。」

「え?行かなかったってこと?」

「そうなんです。本気で忘れてました。今日、茉莉に怒られました。」

 あんなことをした桐谷くんも冷静ではなかった...ということなんだろうか?

「そうなんだ。」

「で、さっき呼び出されて。オレが好きだって告白されました。」
サラッと言っちゃうところが憎い。

「オレ、はっきり言いました。もうエリみたいに誤解されても嫌なんで。
好きな人がいるって。茉莉のことは恋愛対象として見たことないし、これからもないって。」

「...なかなかキツいこと言うね。」
茉莉ちゃん、大丈夫かな。

「先輩、茉莉のこと心配してますけど、オレの好きな人は相川先輩ですからね。」

 その言葉に昨日のできごとが再び脳裏によみがえる。


『電車が参ります。お気をつけください。』
電車がホームに入ってきた。
気がつけば、周りには電車を待つ人がたくさんいた。
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