きみと3秒見つめ合えたなら
 それでも、噂は尾ヒレがどんどんついて収まりそうになかった。
 とうとう、先生たちの耳にも入ることとなり、私と桐谷くんはゴンちゃんに呼び出された。

「大丈夫、オレに任せて。」
桐谷くんが生徒指導室に入る前に私に言った。

 生徒指導室に入ると、ゴンちゃんの他にそれぞれの学年の生徒指導の先生もいた。

「お前ら、付き合ってんのか?」
ストレートに聞いてくるゴンちゃん。

「付き合ってるわけないじゃないですか。先生も部活見てたらわかるでしょ?」
自分も困ってる...みたいな雰囲気をだしつつ、桐谷くんが答える。

「だよな、オレもそう思うんだ。相川なんて、お前のこと、むしろ避けてるだろ?な、相川。」
ゴンちゃんが苦笑しながら言う。
私も苦笑するしかなかった。

「先生、キツいこと言うなぁ。」
桐谷くんが呟く。

「駅で抱き合ってたとか、噂になってるけど?」生徒指導の先生が強めに尋ねてくる。

「それっていつの話なんですか?オレ、いつも登校は自転車だし、電車に乗ることってないんですけど?」
桐谷くんがとぼける。春合宿はなかったかの様に。ゴンちゃんも忘れているようだ。

「じゃあ、何であなた達の噂が広まるわけ?」
さすがに生徒指導の先生はきびしい。

「オレだって困ってます。オレだって好きな人がいるのに。こんな噂になって。」

 なかなかの大胆な発言をした桐谷くんに、先生たちは目を丸くする。
私も思わず、桐谷くんをみる。


「でも、桐谷は、相川のファンだって聞いたことあるぞ。去年の体育祭とか。」先生たちも引かない。

「足、速くて、かっこいいじゃないですか。それだけです。」
桐谷くんは淡々と答える。


「相川さんは?さっきから黙ってるけど。」

「私も困っています。桐谷くんは、ただの部活の後輩です。」
心臓がバクバクしている。

「まあ、噂なんじゃないですか?やっぱり。私はこの2人、部活でみてますけど、全くそんな雰囲気ありませんね。」
 ゴンちゃんが「もういいじゃないですか」という感じで終わりたそうにしている。

「じゃあ、今回のことは事実無根、ってことね。ただし、全く何もないところにこんな噂が出るってことは、どこかそういう要素があるからよ。気をつけなさい。それから、学校だけでなく、地域の人の目もあることを忘れないで。」

「はい。」
私たちは素直に返事して生徒指導室をあとにした。

「相川、桐谷。」
廊下に出たところで、ゴンちゃんに呼び止められた。

「オレはお前らが言う事を信じる。もしも...だぞ、付き合うんだったら、清く、正しく、やってくれ。」
ゴンちゃんが冗談混じりに言う。
「はーい」
桐谷くんが、返事した。

 桐谷くんの大芝居で私たちはお咎めなしとなった。

 お咎めなし...の効果は絶大で、噂をする人はいなくなった。
 むしろ「誰だよ、あんなデマ流したの」という雰囲気にもなった。

 ただ、誰かに見られたことは事実なので、そこにはまだ不安があった。
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