【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
「えっと、ラティ?」
「ワフ」
いつもと違う雰囲気のラティ。
メルシアは、少しだけ逡巡した後、「ランティス様?」と、呼んだ。
「ワフ」
普段であれば、ランティス様と呼ばれるのを嫌がるラティが、真っ直ぐメルシアに視線を合わせて返事をする。
それだけで、メルシアは、今、狼の姿であっても、いつものラティではないことを確信する。
「……もしかして、ご自分の意思で、姿を変えたのですか?」
ランティスは、自分の意思で狼になった時には、諜報活動くらいはこなせるのだと、メルシアは聞いたことがある。
つまり、今の状況は、そういうことなのだろう。
「ワフ」
今まで、メルシアの前で姿を変えることを拒んでいたようなランティス。
その心境の変化が、メルシアにはわからない。
「どうして?」
「……ワフ」
ランティスとしても、返事ができないことが、もどかしい。
メルシアの前で、自由に喋れない狼の姿は、受け入れ難い。それでもランティスは、メルシアのそばにいることを選んだ。
その時、暮れた空から月の光がほのかに馬車の中を照らし出す。
白銀の毛並みを輝かせる月の光。
幻想的な光景に、メルシアは言葉を失い、しばし見惚れた。
その時、フワリと向かいの席から隣に移動してきたラティがメルシアに少しだけ擦り寄った。
いつもの、わんぱくな印象の行動ではなく、愛しげに、幸せそうに。
次の瞬間、メルシアの真横には、メルシアを見つめて微笑むランティスの姿があった。