【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
「あの、ランティス様?」
メルシアは、恐る恐るランティスに声をかける。
どうして、今まで頑なに自分から変身しようとしなかった狼の姿になったのか、メルシアにはわからなかった。
けれど、ランティスはメルシアを見てほほ笑んでいる。
「……夜道は危険だ。護衛はつけているが、メルシアに何かあったら、俺は後悔してもしきれない」
「――――あんなに、嫌がっていたのに」
メルシアは気がついていた。
ランティスが、ラティであること、狼に姿を変えることを、心のどこかで受け入れていないのだと。
(それでも、ランティス様は、狼姿に自分から変わってまで、ついて来てくれた)
それは、メルシアにとって嬉しいと同時に、どこか申し訳ない出来事だ。
「正直に言って、俺が狼に変わってしまって満足にそばにいられない事、どう思う?」
「えっ?」
メルシアにとって、ランティスの姿であろうと、狼のラティの姿であろうと、そばにいられるだけで嬉しくて幸せだ。
だから、そのことをそのまま伝えればいいのだろう。そうメルシアは考える。
(……でも)
あの、赤い髪のものすごくかわいらしい少女。
答えようとしたメルシアの脳裏に浮かんだのは、赤い髪の少女がから、飲み物を受け取ったときのランティスの笑顔だった。
(今まで、遠くから見ているだけで。幸せいっぱいだったのに、あの時私は……)
「――――訓練の時、赤い髪の女の子に、笑いかけていましたよね」
「…………え?」