【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
メルシアは、言おうと思っていなかったはずの言葉が、口から出てしまい慌てる。
口元を押さえて、なかったことにしたいと後悔したけれど、口に出してしまった言葉は、もう戻らない。
「赤い髪? ベルトルトの妹のことか?」
「……ベルトルト様の」
「――――飲み物?」
「あ、えっと」
(これでは、そんな細かいことまで目を光らせていたみたい。穴があったら入りたい)
ランティスは、しばらく馬車の天井を見ながら思案していたが、少しして真っすぐにメルシアのことを見つめた。
「ベルトルトが忘れた水筒を受け取った時?」
「えっ?」
「そう。ほかの騎士達に指示出しをしていたから、渡しておいて欲しいと……」
メルシアは、自分の勘違いを恥じた。
(でも、それでもあの笑顔は……)
「メルシアに、会いたがっていた。ベルトルトの命の恩人だから、と。それで、メルシアはあそこにいるから、今度紹介する約束をしたら、可愛らしい人ですね、と言われて」
「――――えぇ?」
「そうだろう? 可愛い人なんだ、と答えたのだが。……もしかして笑顔だっただろうか」