【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。


 二人見つめ合う、甘い空気は、馬車が急停止したことで終わりを迎えた。
 ランティスは、微笑んでいた瞳を鋭いものにし、窓の外に目を向ける。

 馬車を取り囲む気配は、数人ではない。かなりの人数だ。

「…………何があっても、馬車から降りるな」
「ランティス様!」
「心配いらない。必ず守るから」

 ランティスは、馬車の扉を開き、飛び降りると外側から鍵をかけた。
 メルシアは、暗い馬車の中に一人取り残される。

「なぜ、フェイアード卿が乗っている。確かに、馬車には婚約者一人しか乗っていなかったとの報告を受けたのに」
「……なるほど。メルシア狙いというわけか」

 獰猛に笑ったランティスの口元から犬歯が覗く。
 剣を抜いたランティスに、敵う人間などそうはいない。

 ただ、この人数。
 そして、メルシアを背中に庇っている以上、時間制限付きだ。
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