【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
「……どうせなら、もう少し早く襲って来ればいいものを」
あと10分。
負けるとは思えないにしても、この数を倒すには、ギリギリだろう。
「考えるだけ、無駄か」
スパリと、音もなく振るわれた剣が、月光を反射する。それ以上に、月を反射して輝くランティスの髪と瞳に、襲撃者たちは、思わず息を呑んだ。
体重など感じさせない、そして低い位置から繰り出される攻撃に、なすすべなく倒れていく襲撃者たち。戦場で対多数と戦い続けてきたランティスにとって、造作もないことだ。
「だが、時間切れ直前か」
御者をしていた侯爵家の騎士とともに、最後の一人を備え付けていたロープで縛り上げ、ランティスは息をついた。
その時、遠くから一本の矢が飛んでくる。
そして、一人の男が目の前に立った。
「増援……」
「様子見ていたけど、面白そうだから混ざることにした」
おそらくフードの下では笑顔だろう男の声には、まだ何処か幼さが残っているようだった。
その瞬間、ランティスの体が、熱を帯び始める。
「ち。おい、先に馬車を走らせろ、騎士団にベルトルトがいるはずだ」