【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
「じ、実は、あ、愛犬の元気がなくてな」
「え! ラティが?! …………あ、あの愛犬さんの?!」
「愛犬さん? …………は、はは!」
初めて笑った顔を見たのかもしれない。
笑うと少し幼いランティスの雰囲気の変化に、メルシアは視線が外せなくなった。
「ご、ごめんなさい。あの、飼い犬のお名前……」
「――――ラティと」
「え?」
「ラティと呼んで? メルシアには、そう呼んで欲しい」
とたんに、メルシアの頬は真っ赤になってしまった。
(ど、どうしよう。ほっぺが熱い。愛犬の名前、ラティって呼んで欲しいって言われただけなのに。こんなの勘違い女だって、引かれてしまう)
「え…………?」
それなのに、ランティスはメルシアから、目を逸らすこともなく真っすぐ見つめていた。
「――――っ、すまない。時間だ。ゆっくりしていってくれ」
それだけ言うと、ランティスは足早に去って行ってしまった。
いつものお茶会みたいに、メルシア一人を残して。
いつもと違うのは、メルシアの頬が真っ赤に色づいていること。
そして、メルシアにはもう見えないランティスの頬も、赤くなっていることぐらいだった。