【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
「……はあ。好き」
「ワ…………ワフ?」
その言葉が、メルシアの口からひそやかに漏れ出した瞬間、なぜか、くったりと体を寄せてきたラティの様子に、首を傾げつつ、メルシアは、続ける。
「本当は、ずっと好きでしたなんて。迷惑だと思って言い出せなかったけど、どちらにしても婚約破棄になるなら、いっそ言えばよかった」
ラティが、あまりに神妙な様子で、ランティスと同じオリーブイエローの瞳で見つめてくるから、思わず本音を話してしまった。
でも、犬相手なのだ。誰にも告げ口なんて、されないだろう。
「ラティ、今日はありがとう。でも、やっぱりランティス様にこれ以上、迷惑……かけたくない。ランティス様の優しさに甘えるのは、これで、終わりにしようと思うんだ」
「クゥウン」
本当に、ラティは賢いな、とメルシアは、ふわふわの頭を撫でながら、ほんの少し不思議に思う。
しかし、メルシアがフェイアード侯爵家に訪れなくなったその日から、なぜか治療院には、ランティスと犬のラティが、交互に現れるようになったのだった。