【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
たしかに、婚約破棄をされたはずなのに……、とメルシアは、混乱して否定の声を出すことすらできない。
「申し訳ないのですが、時間があまりありませんので……。また、会いに来てもいいだろうか……。メルシア」
オリーブイエローの瞳に、白銀の髪。
本当に、ランティス様は、ラティにそっくりの色合いをしている。
侯爵家なのだ、もしかしたら主人に似た色合いの犬を探してきたのかもしれない。
「あの」
「……お願いだ」
「は、はい」
意味は分からないまでも、ランティスの瞳があまりにも真剣だったため、メルシアはほかのことを考えることもできずに、コクコクと首振り人形みたいに頷くしかできなかった。
(この治癒院が、そんなに気に入ったとか……? まさかね)
たぶん、王都の巡回中だったに違いない。
今日は、正装ではなく詰襟のいつもの騎士服だ。
装飾が少なくて、マントも短い片側だけの略式。それが、またカッコいい。
「――――あわわ。どうして、あんなにカッコいいの」
「幸せそうね。婚約してから、遠くで見ている時のほうが幸せだったって顔をしていることが多かったから、心配していたのよ」