【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。


 ***

「ちょっと着替えてくるから、いい子にしていてね?」
「ワフッ」

 ラティが大人しく座ったのを確認して、治癒院の制服から、手早く私服に着替える。
 飾り気の少ない、平民が着るような服装だ。
 フェイアード侯爵家に行くにしては、メルシアの服装は、あまりに質素というか貧弱だ。
 淡いグリーンのスカートと、白いブラウスが、清楚な印象を引き立てて、とても可愛らしいにしても、

「ラティ、ちゃんといい子に待てて、えらいね」
「ワフ……」

 でも、前回だってランティスに連れ去られるように訪れたフェイアード侯爵家。メルシアは、治癒院の制服のままだったのだ。今さらなのかもしれない。

「ラティは、ランティス様のあとを追いかけてきてしまったの?」
「……」

 犬に真剣に話しかけているメルシアは、周囲から滑稽に映るに違いない。
 それでも、まるでこちらの話が分かっているようなラティに、メルシアは話しかけずにはいられなかった。

「王都は、治安も良くないし、ラティみたいなきれいな犬は、きっとすぐにどこかに連れていかれてしまうわ」
「…………ワフ!」

 なんだか、不満気な返答だ。そして、ラティは、まるで周囲を警戒するように、メルシアの周りをぐるりと歩いて、その足に擦り寄った。
 メルシアのほうが危なっかしいとでも言いたいようにも見える。

「ふふ。じゃあ、何かあったらラティが守ってね?」
「ワフ!」

 メルシアにとって、ラティと過ごせる楽しい時間は、フェイアード侯爵家に着いたことで終わりを迎える。
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