【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
「――――ほら、着いたわ。もう、勝手にお屋敷から出てきてはダメよ? さ、ここからはひとりで……。え?」
ラティは、堂々と正面から入るようだ。
もちろん、先ほど仕事中だったランティスは、まだ屋敷に戻っているはずがない。
それなのに、ラティは、メルシアが寄っていくのが当たり前だとでもいうように、スカートの裾を咥えたまま離さない。
「あの……。主人が不在のお宅に、勝手にお邪魔するわけにはいかないのよ?」
ましてや、メルシアはすでに婚約破棄された赤の他人だ。
いくらランティスの懐が広いからといって、勝手にお邪魔するなんてダメに決まっている。
そんな風に、メルシアとラティが、門の正面で押し問答のような状態になっていたのは、たぶんほんの少しだっただろう。
だが、屋敷の人間にはもちろん気がつかれてしまったらしい。おもむろに門が開いて、老齢の男性が顔を出した。
「お待ちしておりました。メルシア様」
優雅な礼。執事のハイネスには、メルシアも訪問の度にお世話になっていた。
シルバーグレーの髪とグレーの瞳。フェイアード侯爵家の教育水準の高さを体現したような人物だ。
「あっ、ハイネスさん! ごめんなさい。今日はランティス様とのお約束があるわけじゃなくて……」
「――――ラティを連れてきてくださったのですね? どうぞお入りください」