【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
当たり前のように、執事のハイネスは、メルシアを屋敷へ入るように促す。
(…………まさか、ランティス様は、執事のハイネスさんに、婚約破棄の話をしていないのかな?)
ようやくスカートの裾を解放し、するりと、横をすり抜けたラティが、門の中に入ってメルシアの方を振り向いた。
しっぽをブンブン振って、まるで、「早く入って来い」とでもいうようだ。
「――――あの、私」
「メルシア様がいらっしゃった時には、いつでも丁重におもてなしをするように、ランティス様より、申し受けております」
「え? でも私はもう……。それに、こんな格好で」
「そうおっしゃらずに。何もせずに帰したと分かったら、私がお叱りを受けてしまいます」
メルシアの知っているランティスは、従業員のことを、大した理由なく叱るような人間ではない。
それでも、そう言われてしまえば断りづらいのだった。
「それでは、少しだけ……」