【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
「うぐ、かわいすぎか。……そ、そうだな。隠し事はなしだ。つまり、その。……ずっと、好きだったから」
メルシアは、あまりに予想外、とばかりに、キョトンと長いまつ毛に縁どられた、エメラルドのような瞳を瞬く。
「え? だって、塩対応だったではないですか」
「…………塩対応とは?」
「塩対応は、塩対応ですよ」
「……そうか。だが、俺は、婚約なんてする前から、いや、厳密にいえば」
しかし、その言葉の続きは、語られることはない。
再び、メルシアの目の前には、しっぽをちぎれそうなほど振ったラティがいた。
「ワフ!」
「わぷ?!」
再び、メルシアは押し倒される。今度は床に。
幸い、フェイアード家の絨毯は、毛足が長くてふかふかなので痛くない。
でも、先ほどの土下座が脳裏をよぎる。
こうしている間の記憶は、しっかりランティスに残っているらしい。
「あぅ…………。と、いうことは?」
婚約破棄の日に、あんなに号泣して、ラティに話したメルシアの本音も、全部ランティスは知っていたということではないか。
そして、今現在、ランティスのシャツと下着だけというあられもない姿で、床に押し倒していることも。
「ちょ、ちょっと! まって! まて、ラティ!」
「キュ、キュウンッ!」
一瞬、我に返ったらしいラティが、壁際まで走り去って、きちんとお座りをした。
狼にも、待て、が有効だということを、この日メルシアは初めて知ったのだった。