月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。
「──っ?!」

 あまりの驚きに、ティナは抵抗を忘れ、抱きしめられたままになってしまう。

「ち、ちょっと!! トール!! どうしたの?!」

 我に返ったティナがトールの背中を叩くと、現在の状況に気づいたトールが慌ててティナから離れた。

「ご、ごめん……!! ティナの……クリスティナの姿を見たらつい……!」

 トールの顔はよく見えないけれど、顔が赤くなっているのは何となくわかる。
 いつもボサボサの髪は更にボサボサになっているし、よく見ると制服もくたびれている。

「……もしかして、私を探してくれていたの……?」

 まさか、と思ったティナだったが、トールの戸惑った様子に確信する。

 ──彼は学院から姿を消したティナを、ずっと探し回っていたのだ。

「先生に呼び出された後戻ってみたら、もう学院中が大騒ぎで……。何があったのか聞いたら、君が婚約破棄された挙げ句学院から出て行ったって。それからすぐ追いかけたんだけど、既に君の姿は無くて、だから──……」

 ……今まで探していたのだと、トールは恥ずかしそうに呟いた。
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