月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。
「ティナの後を追いかけて門を出る時に守衛さんに聞いたんだけど、確かにティナは門をくぐったはずなのに、忽然を姿を消したって言っていたよ。街で聞いてみても、誰も君の姿を見ていないんだ」

 トールの話にティナはギクッとする。ティナが結界や魔法で姿を消すことが出来るのは、ティナとベルトルドだけの秘密なのだ。

 もし誰かに知られたらすぐに神殿に報告され、素材をギルドに預けることも出来なくなってしまうだろう。それにこっそり抜け出せる手段を持っておくと、すごく役に立つので誰にも知られてはならない、とベルトルドから言われている。

「それから王都中を探していたんだけど、君のご両親が冒険者だったことを思い出してさ。もしかして、と思ってここに来たんだ」

 トールはそう説明すると「会えて良かった……」と、嬉しそうに微笑んだ……ような気がする。
 口元が笑みの形を作っているから、きっとそうなのだろうと思うしかないけれど。

 トールの表情はわからないものの、何となく醸し出す雰囲気は甘く、ティナと会えたことを隠そうともせず堂々と喜んでいる姿に、ティナの方が恥ずかしくなる。

「……う、うん。有難う……って、あれ? 私、トールに両親が冒険者だったって言ったっけ?」
< 37 / 616 >

この作品をシェア

pagetop