ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい

 約束の土曜日、灯至と粧子は朝早くから墓参りへと出かけた。両親の墓は粧子の生まれ育った街にある。都心から四時間ほど高速道路を走った田舎だ。
 故郷が近づくと懐かしさに胸が震えた。緑の匂い。風の音。やたらとうるさいカエルの鳴き声。在りし日の幸せな思い出が瞼に浮かんでくるようだった。

 変なの……。

 暮らした年数だけでいえば、平松の家の方が長いのに故郷といえばこの街を思い出してしまう。
 灯至の運転する車は街の中心部を駆け抜け、やがて古びた寺の駐車場に止まった。

「粧子ちゃん、いらっしゃい」
「お久しぶりです。ご住職」

 長命寺というこの寺は宇多川家の菩提寺だ。笑うと目が細くなる人の良い住職は小さい頃からの知り合いだ。

「こちらの男性はどなたかな?」
「私の夫です」
「どうも」

 灯至は住職に軽く会釈した。結婚を知らされた住職はことのほか喜んだ。

「そりゃあ、めでたい!!亡くなったご両親もさぞお喜びになるでしょうに!!」

 住職への挨拶を終えると、墓地へと続く砂利道を歩く。最低限の手入れはしてもらっているようだが、長らく誰も訪れていなかったせいで墓の周りは目に見えて荒れていた。……まずは掃除だ。
 
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