ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい
灯至に手伝ってもらい、砂を払い、草むしりをして、花立の水を変えてやる。
掃除が終わったところでようやく線香をあげることができた。春の空に細長い煙が立ち昇って行く。前回は祖父と訪れたこの場所に今日は灯至と訪れている。人生何が起こるか分からないものだと粧子は実感していた。
お母さん、お父さん。私はこの人と結婚しました……。色々ありましたが、なんとか元気でやっています。また来ますね……。
墓の前でしゃがんで手を合わせ念じる。粧子の気持ちは空の上にいる両親に届いたのだろうか。
「帰りましょうか」
粧子はその場から立ち上がると、精一杯の笑顔で灯至を振り返った。
墓参りを終え、もう一度住職の元へ挨拶に向かおうとしたその時、粧子に不測の事態が起こる。
「あっ」
草履の先が石にかかり、転びそうになったのだ。よろめいた粧子を灯至が寸でのところで抱き止める。
「墓参りに来るのに何でそんな格好なんだよ」
こればかりは文句を言われても仕方ない。
若女将を引退してからめっきり着物を着ていなかったが、今日は特別だった。
春らしい桜柄の訪問着は粧子のとっておきの一枚だ。この日のためにわざわざ虫干しして準備しておいた晴れ着だった。