ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい
「こんにちわ~」
「いらっしゃいませ、果歩さん」
常連客の名前も徐々に覚えた。かっちりとしたネイビーのセットアップを着こなすキャリアウーマン風の可愛らしい女性は梅木果歩さんだ。
社長秘書という堅い職業ながら、気取ったところもなく親しみやすい人だ。
「ウメキチ。邪魔」
「もう、ジローさんってば邪険にしないでくださいよ」
果歩を押し退けるようにして入口から現れた男性は同じく常連のジローさんだ。ジローというのはあだ名で、本名は篝皇治郎というらしい。
二人は粧子が住んでいる槙島スカイタワーに入居している会社で働く同僚だった。
「えーっと、ミックスサンドと牛カルビのご馳走サンドをください。あとコーヒー二つ。お持ち帰りで」
ショーケースを眺めていた果歩が粧子に注文を伝えると、ジローが間髪入れずに突っ込みを入れる。
「そんなに食うのかよ?来週結婚式なんだろう?」
「一人で全部食べませんよ。半分は差し入れです。あの人、何かに没頭するとご飯を食べなくなるので」
果歩は結婚式を控えているプレ花嫁だ。一生に一度の晴れ舞台を控えている彼女からは幸せオーラが滲み出ていた。