ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい

「ん〜!!美味しい〜!!」

 果歩は試作品を食べると、幸せそうに口を閉じたまま叫んだ。

「粧子さんもよかったらどうぞ」
「いいんですか?」

 麻里に勧められ、粧子はサンドウィッチが刺さった爪楊枝を口に運んだ。

「美味しい……」
「よかった〜!!」

 感想を伝えると麻里は本当に嬉しそうに微笑んだ。
 麻里の作るサンドウィッチは本当に美味しい。思わず頬が緩んでいく。

 ヒラマツで働いている時はいつも心が張りつめていた。若女将として相応しい振る舞いが求められていたし、老舗和菓子屋としての品格を顧客から試されることもあった。
 SAWATARIの空気はほんわかしていて穏やかで心地が良く、つい気が緩んでしまう。それは店主である沢渡姉妹のおかげに違いない。

「あ、もう退勤の時間ですね」
「本当だわ」

 栞里に指摘され、時計を見ればもう十四時の退勤時間になっていた。
 忙しさも手伝い勤務時間の三時間はあっという間だ。粧子は事務スペースに引っ込むと、エプロンを脱ぎ軽く畳んでバッグにしまった。

「お疲れ様でした」

 バックヤードから外に出る前に、店頭にいる栞里に一声掛けていく。

「粧子さん、例の件ですけどお返事待ってますね」
「はい」
 
 粧子は賄いとしてサンドウィッチをひとつもらい帰宅したのだった。

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