ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい
「書斎で仕事をしている。何かあったら呼べ」
「はい」
お腹いっぱいになり、粧子は再びベッドに横になった。少しだけ眠るつもりが、起きたら外が真っ暗で驚いた。スマホを見れば時刻は十八時。お粥を食べてから五時間ほど寝ていたことになる。
灯至さんはまだ仕事中かしら?
寝巻きの上にカーディガンを羽織ると、粧子は灯至の姿を探しに出かけた。リビングを通り薄暗い廊下を進むと書斎のドアが少しだけ開いていた。
明かりが漏れ出している扉をノックをしようとした時、廊下に漂う違和感の正体に気がつく。
辺りには灯至のものとは似ても似つかない女性物の甘い香水の匂いがした。
「……と……だ……」
書斎の中からは話し声が途切れ途切れ聞こえてくる。
他に誰かいる?
ドアの隙間から目を凝らすと、デスクチェアに腰掛ける灯至と、もうひとり。ネイビーのスーツに身を包む女性が立っているのが見えた。
あの人、知っているわ……。
大叔母が老人ホームの契約する時にも、土地の売買契約を結ぶ時にも同席していた槙島家お抱えの弁護士だ。確か……名前は槙島純夏と名乗っていた。
「ああ。予定通り粧子に平松モト子の遺産を相続させる」
「このこと、奥様は承知しているの?」
「粧子に伝える必要はない」
二人の様子を窺っていた粧子は会話の内容にひどく動揺した。