LIBERTEーー君に
演奏するのはブラームスの曲ではないのに、想像が膨らんでいく。

時間を確認し、詩月とミヒャエルは各々、楽譜の再点検、ヴァイオリンの調弦を済ませ、黒スーツに着替え、靴ひもを結び直す。

「ずいぶん余裕だな」

舞台裏に向かう途中、審査を終えたコンテスタントが、詩月とミヒャエルにボソッと呟いた。

演奏がうまくいかなかったか、憮然としていた。

詩月がミヒャエルの袖を引いた。

「ヴァイオリニストなのか、ピアニストなのか、はっきりしろよ。周桜Jr.」

ミヒャエルかコンテスタントを睨みつけた。

「ミヒャエル、行くよ」

詩月はミヒャエルの手首を掴み早足で10数歩進み、足を止めた。

「……相手にするな」

詩月は胸を押さえた。

「……マナーも観られて……る」

「詩月!?」

「少し……息が上がってるだけだ」

< 166 / 258 >

この作品をシェア

pagetop