LIBERTEーー君に
詩月は目を閉じ数回、ゆっくりと息を吸った。
 
練習中も、詩月がふとした時に見せる仕草が、ミヒャエルを不安にさせた。

エィリッヒを予備の伴奏者に申請して、演奏を合わせたのも詩月の体調を考えてのことだ。

それを痛感させられる。

「行くよ」

ミヒャエルは詩月が何事もなかったように、ゆっくり歩き出しホッとする。

エィリッヒの伴奏では1度も満足できなかった。

詩月でなければ、思い切り演奏できなかった。

詩月には気兼ねせず、安心して伴奏を任せられた。

今、詩月に倒れられたら、そう思うと不安しかなかった。

「大丈夫なのか」

「ああ」

詩月の声で調子を確認し、後ろを振り返った。

先ほど、声かけてきたコンテスタントの姿はもう見えなかった。

「ああいう(やから)は誰かに八つ当たりしたいだけだ。おおかた審査の評価に納得できなかったんだろう」
< 167 / 258 >

この作品をシェア

pagetop