オタクな俺とリアルな彼女。
……怒った?

ちろりと見上げても,その表情は読めない。

かろうじて唇に力が入っているのを確認できる位だ。

あーやべー,これがちで怒ってるやつかな。

嫌われるのだけは勘弁なんだけどなぁ。



「……そうか」



長い長い沈黙の後,たった一言そう返される。

その長い長い沈黙の中で,先輩は何を考えたんだろう。

否定されなかったのは幸いだ。

いっそ先輩らしくてほっと息を落とした俺の前で,先輩がばっと俺を見た気がした。

口を開いて何かを言い直そうとした気配があったものの,俺が顔を上げた時にはすっかり閉じていた。



疑問を口にする前に小さな音がして,それは先輩が口を開いた音。



「……長々とすまなかった。ここは私が奢ろう。昼食をとってくれ」

「あ,や。コーヒー飲みに来ただけなんです俺。昼食は……今日はもう色々お腹一杯なので……」

「ならコーヒーを奢る。ワンコインあれば足りる筈だ,釣りは必要ない」

「えっでも……」

「少しは年上の顔を立ててくれないか? 私の立つ背がない」



焦れるように,眉を寄せた先輩は自身のこめかみを叩く。



「早く買ってこい」



終いには500円玉を俺の前に置いて,ギロリと俺を睨んだ。



「って,え?」
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