オタクな俺とリアルな彼女。
高校生でもあるまいし,さっさと寝付く必要はない。

とペシャリと叱られる。

確かにほんのり酔って回答が投げやりになっている姿を見ることはあっても,それ以上はない。

ずっと澄んだ顔をして,言葉も安定している。

数時間,その体内にはアルコールが入り続けているのに。

まさかの,ザル。

盲点だった。



「まさか……珈琲は眠気を醒ますため,だなんて言わないだろうな?」

「えっ」

「バカなのか君は。見たところあまり珈琲自体も慣れていないのだろう。やめた方がいい。君が今考えるべきは,如何に起きているかではなく,如何に身を休めるかだ。何よりまずそこを間違えてはいけない」



そして先輩は机に人差し指を突き立てて



「今すぐ寝ろ」



突き放すように顎を俺に向けた。

戸惑っていると,再度寝ろと言われる。



「正確には分からないが,少なくともあと20分はあるはずだ。今の君であれば,5分無くとも眠ることが出来るだろう。私が起こしてやる。寝ろ,今ここで」



いや,いい。

今すぐ寝ると言うのはいい。

だが,先輩の目の前で?!

恥ずかしすぎて寝れる気がしないし,勿体無すぎる。

でも,逆らうなど誰に出来ようか。

他ならぬ先輩が,わざわざ俺を心配してくれているのに。

俺はぐぬぬと気持ちを抑えて,ゆっくりうつ伏せた。

ちらりと見上げると,先輩はバックから何やら本を取り出して読み始めている。

くそう,きれーだなぁ。

先輩の言う通り,目蓋はすぐに持ち上がらなくなった。
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