君が月に帰るまで
「ああ、ゆめ。オンラインの英会話の授業14時半からだったよね。そろそろ帰る?」

「えっ? あっ、あぁ、そうだった。うん、もう帰ろうかな」

「そう、じゃあそろそろ出ましょうか」

夏樹もジュース片手に戻ってきたが、「俺も出る」と一気に飲み干して、みんなで席を立つ。
ゆめもコーヒーをガブっと飲んだが苦いっ!! と目を丸くしていた。

「楽しかったー!!」
ゆめがそう言いながらファミレスのドアを開ける。すぐ階段になっているのだが、気づかなかったのかバランスを崩してつまづいた。本日二回目。「おいっ……バカっ!!」

先に出ていた夏樹が、ゆめの手を引っぱり腰を支える。

「んだよ、よく見ろよ」
「へへっ、ごめんごめん。私よく転ぶんだ──」

パシッ。思わずはじめは手をつないでいる夏樹の手を離して、ゆめの手を握った。

「……えっ。はじめ? どうしたの?」
「……お前、どうした?」

えっ……なんだろ。体が勝手に……。

「ああ、ごめん。なんか助けるの遅くなった!!時間差? 意味ないよね。ごめん」

あははと乾いた笑いをしながら、ゆめの手を離す。みんなの顔が見られなくて、1番前を歩いて、図書館と駅方面への別れ道までやってきた。

「みんなありがとう。またね!」

まだ勉強していくという、かえでと夏樹に挨拶をして、ゆめは駅の方へあるいていく。

「じゃあ、また明日!」

慌ててゆめを追いかけながらふたりに手を振った。なんか、変な時間だったな。

勉強ばっかりで、友だちとファミレスに行くのなんかものすごく久しぶり。でも、ずっと前から仲良しだったみたいな、不思議な感覚だった。駅に向かって歩いていくと、なんだか構内が騒がしい。なんだろうと思って電光掲示板を見ると、事故により列車が止まっているとの表示。再開の目処も立っていない。

嘘でしょ……。どうしよう。

「はじめ? どうしたの?」
「ああ、事故で電車が止まってるみたい。バスでも帰れるけど……。時間もないしタクシーで帰ろう」

慌ててタクシー乗り場へ行くと、みんな考えることは同じ。長蛇の列ができていた。これでは間に合わない。とにかくタクシーを拾おうと、大通りへ出ることにした。

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