君が月に帰るまで
大通りに出ると、タクシーはたくさん走っている。一台すぐに止まってくれて、なんとか乗ることができた。

「どちらまで行かれますか?」
「N駅に向かってください」
「わかりました」

なんだか、聞いたことのある声。ルームミラーを見ると「朔!!」とゆめの嬉しそうな声。

「姫さま、お元気そうでなによりです」
「こんなところにいたのね」
「はい、車が好きでしたので、タクシー運転手として、働いています」
「ええっ、免許とかは?」
はじめは驚いて前のめりになって訊いた。
「月の魔法でなんとか」

ニヤリと笑う朔。月の魔法ってなに? 運転スキルは大丈夫なの? いろいろなら疑問が浮かぶ。話を聞くと、朔はタクシードライバーとして会社の寮にいるらしい。なんか、ついていけない。

「急ぎますが、時間はギリギリです。お代はけっこうですので、はやく姫さまを室内にお連れしてください」

朔はそう告げると、速度を上げた。「きゃっ!!」

急ハンドルで、ゆめがはじめのほうへガタンっと寄りかかる。あわてて受け止めると、ゆめの華奢な肩幅に胸がトクンと小さく跳ねた。

「だっ、大丈夫?」
「うん、ありがとう。朔、もう少し何とかならないの?」
「すみません、気をつけます」

それでも最大限急いでくれたようで、なんとか月の入りまでに、家に戻って来られた。
「朔、ありがとう!!」
ゆめは走って家の中へ入っていく。

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