死グナル/連作SFホラー
畳の下④
元不動産業:安原鈴絵の場合



『…要するに、”その”お札は悪い人の経由を辿っている。よからぬ出来事が起こりかねないから、そのお札を半額で引き取って、然るべき浄化を施してあげましょうとね…』

その時の私は、まさに信じられない…、その一言に尽きました。
いくら何でもでもそんなこと…、と…。


***


『…考えてみればさ、お金なんて、早晩何かを買えばすぐ人手に渡るし、そんなのアホらしいってことでチョンすればそのままだよね。でも、Aさんって、その手の話し方というか、アプローチとか天才的だったらしく、買い物客たちの中でも常連ができたくらいだったらしい』


「…」


私は呆気にとられて、言葉が出ませんでした。


***


『まあ、時代的なところもあったんだろうけど…。たださ…、当然いかがわしいと思う人も出てくるわけで…。そのうち、詐欺だいかさまだって噂が広まり、警察とか税務署とかが入って、それなりの処罰を受けたそうだ。それでも、Aさんが今まで下取ったいわくつきのお金の一部は、その畳の下に隠しておいたままだったようでね。その後のAさんは、畳の裏に張りついてるはずのお札に願をかけ続けたと…』


「ああ、それじゃあ、一応は浄化を念じたと…」


『いや、それが違ったそうなんだ。Aさん…、何か自分は心無い連中に密告されたと被害妄想に取り憑かれてね、畳の下に念じたこととは、それらの人への恨みつらみだったということだ』


「!!!」


私は思わず絶句し、背筋が凍る感触に襲われていました…。






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