錆びきった鐘は
区切りをつけるように一歩踏み出そうとしたとき、「待って!」という声とともに私の右手首が優しく掴まれた。



もう好きじゃないって、叶うわけなかったんだって、忘れてしまおうって決めたのに。




「そのままじゃ、行かせられないだろ。風邪でも引いたらどうすんだよ」


「……え」




びっくりして、言葉が出てこない。好きな人に突然呼び止められてしまったら、誰だってこうなるよ。


怒られているわけでも、泣かされているわけでもないのに、どんな顔で振り向けばいいかわからない。


皆城くんにとって今の言葉は、元クラスメイトを放っておけないっていう優しさからくるものだってわかっているから。

誰にだって彼は、明るくて優しい。皆を笑顔にできる力があって。



だから私は、皆城くんを好きになったの。
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