錆びきった鐘は
私は力いっぱい握っていたはずなのに、後ろからひょいと取り上げられてしまった。


握った指は僅かな空を切り、その衝動で落ちそうになった上着を胸の方へ引き寄せる。




「あの、山原美葉さんの同級生なんですけど」


『なに、どういうことっ!?』


「えっ、か、皆城くんっ」


「今夜は俺が娘さんを預かるんで」




ピ、こちらから初めて切ってしまったお母さんの電話。いつも切られる側だったから、切ったのは初めてだった。


私のスマホは、今着ている皆城くんの上着のポケットにするりと滑り込む。



皆城くんの意図がわからない。だけど、確実に私の頬は真っ赤で全身がやけどするくらい熱い。
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