身代わり婚のはずが冷徹御曹司は一途愛を注ぎ貫く
「あの、もういいです。私、少し勘違いしてしまったみたいで。とにかく今後は尾行とかはしないでもらえれば、それで」
とにかく今はここから逃げなければ。逆上させないようなるべく騒がず、彼の腕をすり抜けようと試みる。しかし遅かったようだ。簡単に捕まり、今度は引き寄せられて腕の中に閉じ込められた。
「きゃっ、嫌っ!」
「香波さん……香波さん……」
「やめて、お願い! 離してっ!」
嫌悪感が体中に広がっていく。貴仁さんに抱きしめられるのとはまったく違った。頭の中は恐怖しかなく、力いっぱい抵抗しているつもりなのに敵わない。
嫌だ。怖い。誰か助けて。
「う、うぅ、やだぁ……」
誰もいない路地の静けさについに涙が滲んでくる。このまま、この人に好きにされてしまったら、私は──。
「香波!」
聞き覚えのある声とともに、塞がっていた視界が戻った。目に飛び込んできたのは、鬼のような形相の貴仁さんが男性を押さえつけている光景だった。