銀色ネコの憂鬱
翌日も次の日も、また次の日も、菫はスマイリーのことが気になって毎日仕事帰りに蓮司のアトリエに来てしまった。
「そんなに毎日来るならもうここに住めば?」
蓮司が苦笑いで言った。
「だって…気になる…」
「ムカつくなぁ、スマイリーばっか。家主は俺なのに。」
蓮司はスマイリーを抱えると、軽く(にら)むように言った。
「スマイリーに意地悪しないでください!」
「するわけないじゃん。」
そう言って、蓮司はスマイリーにキスをして床に下ろした。その仕草に菫は少しだけ色気のようなものを感じてしまった。
「絵の色が明るくなりましたね。」
蓮司が今描いている絵を見て菫が言った。
「スミレちゃんて本当によく見てるよね。」
「スマイリーが来て良かったですね。」
菫が無邪気な笑顔で言うと、蓮司は小さく鼻で溜息を()いた。
「スマイリーがいるのは確かに楽しいけど、本当にそのせいだと思ってる?」
蓮司が急に真剣な眼差(まなざ)しで菫を見据えた。
「…えっと…」
「そろそろ眼中に入れてくれてるかと思ってたけど。」
「……そ、そういう話は…契約違反…」
菫は目を()らして伏し目がちに言った。
「業務時間外。」
「でも…」

———カリカリ…

何かを引っ掻くような音が聞こえた。
「え!?わぁ!スマイリーがキャンバスで爪研いでます!」
「え?うん、猫だから。」
焦る菫とは対照的に蓮司は平然と言った。
「猫だからって!作品!」
「いいよ別に。スマイリーが楽しそうな方がいいじゃん。きっとそのうち“これは大事なものだ”ってわかるよ。サクラも昔はそうだった。」
「え〜!」
(猫に甘い…)
「にしてもスマイリー、いつも俺の邪魔するよな〜。まぁ、前ほど鈍感じゃなくなったみたいだから進歩したかな。」
蓮司の言葉に、菫の頬が赤くなった。
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